東京高等裁判所 平成8年(ネ)2373号 判決 1996年11月13日
控訴人
相澤一夫
右訴訟代理人弁護士
織裳修
被控訴人
株式会社龍王設備
右代表者代表取締役
加治龍夫
右訴訟代理人弁護士
二宮征治
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、原判決添付別紙物件目録一記載の土地から同目録二記載の建物を収去して、同目録一記載の土地を明け渡せ。
3 被控訴人は、控訴人に対し、訴状送達の日の翌日から右土地明渡に至るまで月三万円の割合による金員を支払え。
4 被控訴人の反訴請求を棄却する。
5 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二 当事者の主張
当事者の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実欄「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決添付別紙物件目録二の構造の「木造」の次に「瓦」を加入する。
2 原判決五丁表一行目の前に、次を付加する。
「(7) 被控訴人は、一貫して円満な話し合い解決を希求し、被控訴人の方からすすんで調停申立てまで行った。
被控訴人は、控訴審においても、裁判所の和解勧告に従い、円満解決のため合理的な範囲での経済的出捐をすることをも考慮する旨裁判所に表明するなど、極めて柔軟な姿勢で和解に臨んだが、控訴人側のかたくなな態度の故に和解は不調に終わった。」
第三 証拠関係
証拠関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実欄「第三 証拠」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決六丁裏一一行目の「甲第一ないし三号証」を「甲第一ないし五号証」に改める。
2 原判決七丁表八行目の「第一二ないし一五号証」を「第一二ないし一六号証」に改める。
第四 理由
当裁判所も、本件賃貸借契約は、非堅固建物所有を目的とし、期間を平成二九年一一月三〇日までとする契約であり、本件賃貸借の合意解約は、錯誤に基づく無効なものであって、控訴人の請求は理由がなく、被控訴人の反訴請求は理由があると判断するが、その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決の「理由」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決八丁表一行目の「第七号証並びに原告本人及び被告代表者の各尋問の結果」を「第七号証、第一〇号証、控訴人本人及び被控訴人代表者の各尋問結果並びに弁論の全趣旨」に改める。
2 原判決八丁裏七行目の「目的を」を「目的については控訴人の申出により」に改める。
3 原判決九丁表三行目の「本件建物は、」の次に「基礎はブロック基礎であり、水道、排水及びガスの設備は備わっていないものの、電気設備を備えた木造瓦亜鉛メッキ鋼板葺二階建建物(床面積一、二階とも19.87平方メートル)であって、」を加える。
4 原判決一〇丁表一〇行目の「木造」から同一一行目の「一棟」までを「約二〇〇万円の費用を掛けて本件建物を」に改める。
5 原判決一一丁表二行目冒頭から同七行目末尾までを次のとおり改める。
「3 右各認定の事実によれば、控訴人が、本件賃貸借契約の締結にあたり、本件賃貸借契約の契約書の表題を「土地一時使用賃貸借契約書」とし、その期間を二年としたうえ、本件建物の基礎をブロックとすることを求め、一方被控訴人に対し権利金の請求をしないことにより、本件賃貸借契約を一時使用目的のものとする形式を整えようとしたことは認められるが、しかし、本件賃貸借契約は、被控訴人にとって、横浜市の指定水道業者として指定を受けるために必要な事務所及び倉庫用建物を建築するために締結されたものであり、被控訴人は、賃借後直ちに約二〇〇万円を投じて本件建物を新築し、本店事務所兼資材置場として利用しているのであって、被控訴人が、契約当初から短期間に限って本件土地を借り受ける意思であったものとは認められないこと、控訴人も被控訴人が本件土地を借り受ける理由を熟知し、したがって、被控訴人の本件土地の使用が短期間で終了するものではないことを承知していたこと、控訴人自身に早期に本件土地の返還を受けなければならない特段の事情があったとは認められないこと、本件賃貸借契約がその後二回にわたり更新されていること、権利金の授受はなかったものの本件契約に当たり賃料が約二倍に増額され、その後もさらに増額されていることなどからすれば、控訴人・被控訴人双方が短期間で契約を終了させる意図のもとに本件賃貸借契約を締結したことが明らかであるとはいえず、本件賃貸借契約が一時使用であると認めることはできない。
なお、控訴人は、本件建物に建物として通常備えられるべき水道、排水及びガスの設備が備わっていないことは、本件賃貸借契約が一時使用であることを示すものである旨主張するが、前掲乙第一二号証及び原審における被控訴人代表者本人尋問の結果によれば、本件建物の新築当時、本件建物の直ぐ近くに被控訴人代表者の借家があり、水やガスが必要なときは、その自宅に行けば用が足せたことによるものであって、右事実は、前記の結論を左右するに足りない。また、控訴人は、本件建物の基礎がブロック基礎であることも本件賃貸借契約が一時使用であることを示すものとも主張するが、本件建物が建築確認の手続きを了した建物であることを考慮すると、右一事をもって、本件賃貸借契約が一時使用のものと判断すべきものとは解されない。
6 原判決一一丁裏三行目の「本件賃貸借契約」から同四行目の「理由に」までを「被控訴人の有する賃借権は、一時使用で、全く権利がない旨告げて、」に改める。
7 原判決一二丁表六行目冒頭から七行目末尾までを次のとおり改める。
「3 右認定の事実によれば、被控訴人代表者の本件土地を明け渡す旨の意思表示は、本件賃貸借契約が一時使用のものであって、平成五年一一月末日に終了していると信じて行われたものであり、その動機に錯誤があったというべきであるが、右動機は、被控訴人が明渡しを約した甲第三号証の約定書の1項に記載されており、したがって、被控訴人代表者の右意思表示には、表示された動機の錯誤があったというべきであって、右明渡しの合意は無効である。」
第五 結論
以上のとおりであって、控訴人の請求を棄却し、被控訴人の反訴請求を認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 町田顯 裁判官 村上敬一 裁判官 末永進)